左から右へ、右から左へ/ナイロビの古本屋/日本からの感想文 |
だがカイロでは右側を車が走る。気温42~44度。うだる暑さの中、てくてく道を歩き、半時間ごとに男たちが水煙草を吸うカフェの中で熱い紅茶を飲む。そして、小銭を置き店を去り、歩きはじめる。そういうふうにして三日間があっという間に過ぎた。
そして、いまはナイロビにいる。車は左側を走る。せっかく頭を左に向けるのに慣れたのに、今度は右を向けて道を渡る。もちろんナイロビで眼を走らせるのは通りを行く車だけではなく、人の視線にも気をつけなくてはならない。ここは交通事故よりも、強盗の方が頻繁に起こる街だからである。
そしてナイロビは思ったよりも寒かった。ナイロビの一番寒い季節は6~8月。日本から持ってきた革ジャンを着こんでも、何の違和感もない。学術振興会ナイロビ事務所を今日訪ねると、ストーヴまで現地職員が出してきていた。
ナイロビの通りを歩いていてふと入った古本屋で、小説のThe Kite Runnerを買う。本屋の名前はAfrica Book Serivice。ナイロビの目抜き通りの一つ、Koinange通りにある。店主は中年の品の良いインド系の女性で、私が選んだ本を見て、「良い本を読むのね。」と声をかけてきた。話しを聞いたところ、曾祖父の代からケニアに住んでいるという。曾祖父はカシミールの出身であるとか。
小説はアフガニスタンからアメリカに移住したディアスポラ作家の物語。そのことは彼女の境遇にも重なり、共感を覚えたのだろう。
明日はナイロビを去り、西ケニアのエルドレットへ向かう。会う友人は日本人だが、彼女の夫はベルギー系アフリカ人。ブルンジで生まれ、ケニアで育ち、南アフリカに両親がいる。
旅の準備をしているときに、二週間前に行った岡山での授業の感想文が友人からメールで送られてきた。その二百通以上の感想文を目を通しているだけで、午後いっぱいが終わる。大半はアフリカとは言わないにしても、外国で直に異文化に触れる経験をしたいと書いている。しかし、何人かは「日本に生まれてよかった。アフリカなんかには全く行こうと思わない。」と述べていた。
そういうふうにして、アフリカに来ない人たちがいる。それはそれで仕方ない。もちろん、アフリカに力強くいざなうことができなかった自分自身の力不足にもよるのだけれども。
とりあえず、私はまたアフリカにいる。とりあえず、道を渡るときに右を見る場所で、国境を易々と越える友人たちと出会う。
だが、本当は「アフリカなんか行きたくない」という学生を、この地点まで連れてきたかった。誰もが出会う場所。孤立しない地平へ。
(一枚目の写真は2010年6月18日、カイロスーダン通り沿いのカフェにて撮影。二枚目は6月21日のナイロビにて。三枚目はThe Kite Runnerの表紙より。)