カンパラにおける「女性」という他者 |
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マケレレ大学のキャンパスは基本的に治安がいい。だが例外的に、ここ二、三年の間二件の殺人事件があった。一つの事件は、男子学生が女子学生を撃ち殺したもので、もう一つは女子学生を自殺と見せかけ、絞殺した後に、自分も自殺しようとしたところ、周囲に見つかって取り押さえられた話だ。
女子学生を銃殺した男は、嫉妬に狂っていた。三日前に、その子にフラれたばかりだったんだ。フッた女は、フラれた男など意に介せずに次の日には違う男とデートを楽しんでいた。そしてある晩に、その女の子が寮の部屋にいるとき、扉を叩くものがいる。「誰?」と訊いても返事がしない。扉に駆け寄って扉を開けようとしたときに、ガーン、と撃たれた。男はそのまま逃げ去ったが、あとで警察に捕まって自供した。もう一つは、女の子が寝ているときに、押し入って首を絞めて殺したんだ。そして用意した縄を持って、自殺しようとしたときに、帰ってきたルームメイトの女の子に見つかって、みんなから取り押さえられた。ぜんぶ嫉妬からくる殺人だったんだ。
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「女の方が嫉妬に狂って、男を殺すってことはないのかい?例えば毒殺 とか?」と私が訊くと、モーゼスは一言即下「ない、嫉妬に狂うのはすべて男で、手を下すのも男だ」と言った。
女は男を誘惑し、男は女との恋愛に心を奪われるが、女は男を捨て、そして嫉妬に狂った男に殺される。まるでオペラにある踊り子カルメンと兵士ドン・ホセの物語のように。
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もう一つ、嫉妬の物語。これは都市伝説というより、実際にスラムでのフィールドワーク中に起こった出来事である。2009年7月のある週末、いつものようにスラムにいるアチョリ人のシングルマザーのリタを調査助手のアーサーと一緒に訪ねたところ、彼女は「ねぇねぇ、聞いた?」と街角で行われた集団リンチ について話し出した。その日にはある男が放火殺人の疑いで、周囲の人間から滅多打ちにされ、血みどろになって病院に運ばれたという。
その年の3月にスラム内で放火があり、その際に夫婦二人、子供二人が焼け死んでしまう。リンチに遭難した男は死んだ女性の愛人だったという話で、放火後に姿をくらましていたという。その男が、数ヶ月後にもう大丈夫かと思って、荷物を取りに戻ってきたところ、周囲の人間に見つかり、そして「正義の鉄槌が下された」と。そういうふうにスラムの人たちは語る。
その後に調査助手のアーサーに聞き取りを行ってもらったところ、(周囲の判断では)彼以外に犯人はいないだろうということだった。焼け死んだ女性の「愛人」だったということだけでなく、家庭をもった女に嫉妬するあまり、公衆の面前で「殺してやる!」と家の人間に息巻いたということだった。そしてリンチの犠牲となり、血みどろとなって病院に運ばれたその男は、病院に運ばれたのち、死んだことが確認されたという。
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もちろん、これらの物語について、男性でなく女性が犠牲者であるということもできるかもしれない。リンチで殺されたスラムの男はともかく、マケレレでの一方の話での男は死のうとしたけれども、なんであれ命は助かったのだし、また銃を持ち出した男も、警察に捕まったとはいえ、処刑されたとは伝えられていない。
だが、殺人や自殺、そして狂気に関するウガンダでのスティグマを考えたとき、男たちのその後の運命は死よりも重いと言える。特に自殺は日本と異なり、自殺者というのはまさに「気ちがい沙汰」である。自殺者を出した「家」は村落部では、その後ずっと先々まで忌避の対象とされる 。また殺人を犯したものは「人間」と見なされず、先のスラムでのケースのように時に公開処刑的なリンチの対象となる。
(この項、おそらく続く。。。)