選挙前の援助 |
だからこう言うときは内側を見つめすぎずに、外の世界を見て、それを表現するのが良いのだが、生憎と外の世界もそれほどに健康的な状態を保っているようには思えない、それが問題である。
でも、とにかく書いてみよう。
ウガンダに限らずアフリカの各国での最大のイベントはなにかというと、それは選挙である。民主主義を掲げる国は皆が皆四年周期のこの一大イベントを巡って、てんやわんやの大騒ぎをする。ちなみにウガンダでは来年初頭に国会議員選及び大統領選が予定されていて、今年はその準備を巡り与野党の内外で様々な駆け引きが執り行われている。
援助も実はそのうちの一部である。
昨年から今年の頭にかけて、様々な大臣たちや大臣の腹心たちが私の職場を訪れていた。うちの支社長曰く、選挙をにらみ、地元に援助を引き込むことで、党の地区代表として候補に挙がるための準備であるという。
先日はこの国の大臣から直接私の携帯に電話がかかってきた。
彼の出身地方のある中高等学校に教室が必要だという。だが以前に私が調査に行ったときに明らかになったことは、生徒数が多いとはいえ、教室数はそれなりに足りており、なおかつ学校の管理者たちは大臣の政治力に甘え、お金がもらえるのが当然かのように思っているということだった。
だがそんなことは大臣には直接は言えない。上司に相談すると、政治的なことを考慮に入れると、とりあえず向こうの要求を条件付きで飲んでいくしかないだろうと言うことだった。
いまウガンダの現政府の有力な閣僚はほとんどが西部の出身に占められており、東部・北部の人間はごくわずかだ。だから西部にお金が集まるのだが、援助をする側はその構造に無関心だ。かれらとしては、助けたという実績があればいい。貧しいのはアフリカのどこの田舎も一緒だろう、なんていう幻想があるのだろう。
カンパラで調査をしていて思うのは、やはり西部の人たちの金回りの良さである。土地を元に商売をしている中央のガンダたちと比べ、なにかしら小金をため、アパート経営やスパーマーケットのチェーン店を仕切っている。そして西部の下の層もそういう風に稼いだお金が回ってくるのか、キオスク経営などに乗り出す。先日スラムで調べたら、キオスクの7割近くが西部出身の人間によって経営されていた。また農産物など流通は西部を中心に回っている。
以前にどこかで書いたが、教育の格差は経済の格差と切っても切り離せないというのがウガンダの現状だ。最近になって、中等教育の統一試験の結果が公表されたが、トップ校やトップの成績を収めた子供のほとんどが、西部・中央部に占められ、北部・東部は一部を除き目立った成績を上げているものがない。
そうした経済格差・教育格差を考えたとき、選挙がその是正を行い、格差を埋める手段のように思えるし、実際にそれだけの期待が来年の選挙にかけられているのだが、問題はそう簡単ではない。
今年になって地方分権化ということで、6つものDistrict(日本で言うと県に近い)という地方自治体が生まれたのだが、ムセヴェニを代表する中央政権はこれを進めることで、地方の政治家たちの利権を約束する。また表面的には中央から直接地方政府に予算が行くことになっているために、人々は地域を問わず中央からきめ細かいかたちで自治を約束されているように見える。
だがこれはあくまで表面的なものでしかない。中央政府からの予算は、おおかた自治政府の役人たちによって食い荒らされる。公的事業をはじめとした地方政府の請負業者は、中央部・西部の人間であるし、地方の役人も自らの財政基盤を確固とするために、国際ドナーなどの寄付を求め、おもねることが必要だ。そして、その寄付金(援助における地方自治体への財政支援)は、様々な名目で地方の役人に食われる。
だから、部分的に財を持ってくる現中央政府に投票を促す方が、地方政府としても得策となる。そしてお金の届かない末端は、地方の役人たちを恨み、不平不満をためるが、そこにあるのは現政権への恨みよりも、財に近いものたちだけが独占してしまうという“自ら”の社会への呪詛に近い。
また、こういう風に地方自治体を分割し、内部での対立を促進させることで、中央政府はその直接の批判から(とりあえずは)免れてもいる。こうした「援助」のバランスはカンパラを舞台に中央政府の主導で他国のドナー組織らによってなされ、民主化のミッションを掲げつつも、その実、現政権の巧みな政治に利用されていっていると言っていい。
まあ、こういう「援助」の背景は、たいてい語られない。それはもちろん名目的にも政治的にも、不穏当だからだし、秘められていなくてはならないものだからだが、それにしても「援助」にいそしむのであれば、上のような背景はそれとなく察して、関わることを覚悟したいものである。私の場合は覚悟が未熟だから、どうしても先日に書いたような愚痴をたらたらとこぼしてしまうのだけれども。
(写真は日本政府の援助で建てられた小学校。2008年5月ごろ撮影。ウガンダ、イガンガ県。運良くこのプロジェクトには政治的な気配は色濃いものではなかった。ただ、業者と県政府との関係は、どこと同じようなものではあったかもしれないが。)