“車”のこと(1) |
ここ一週間ほど、日本でお世話になった方の依頼もあり、日本の中古車業者の方々とケニア、ウガンダの商談旅行に同行していた。
この旅行に同伴するにあたって、ケニア、ウガンダ現地の中古車販売業者への仲介を、日本の中古車業者の方から頼まれたのだが、日本人の知人のW氏に紹介を頼んだところ、返事が「やめとけ」という大変つれないものだった。
確かにウガンダでも巷に聞く詐欺や犯罪まがいの事柄は、たいていは車や土地がらみのことではないかと思う。それはどちらも高額で取引され、なおかつ富の象徴となっているからでもある。だが、土地がらみはたいてい外国人は除外されており、時に巻き込まれるかたちで、顕在化する。そして、車がらみはたいていは外国人もウガンダ人も関係なく、入り乱れたかたちで執り行われる。
こちらに来て、その同行した日本の中古車販売の会社の社長が驚いたのは、街に走るトヨタ・ハイエースの圧倒的な多さだった。日本から輸入されてきたと思われるそのハイエースは、こちらに持ってこられるのと同時に、改造を施され、乗合タクシー(ケニア、タンザニアでいうマタツ)に利用される。庶民の足として最も使われている交通手段でもあり、車種でもある。日本から持ってこられたというのが明らかであるのは、その外装に「ヤマダ塗装」とか、「田中工具店」とか、以前に使われていた社名が残っているからでもある。
だが、これにまつわる犯罪話は数多い。
日本ではウガンダ人の不法滞在者による窃盗団が組織され、ハイエースを主に狙っての窃盗を繰り返しているという。それらが特定の転売組織とつるみ、盗んだと同時に分解され、海外に「部品」として輸出される。その際にエンジンナンバーは削られ、車の身元は消されてしまう。
ちなみに、ハイエースの車の「部品」は直接にウガンダに来るわけではない。南アジア(!?)を経由してUAEのドゥバイに辿り着き、そこで初めて組み立てられ、ウガンダ輸出用に仕立てられる(ちなみにケニアではともかく、ウガンダでは輸入時の車検制度はかなり形骸化している)。その際に重要なのは、組み立てられた際に、いくつかの部品はすり替えられ、かなり粗悪な中古車として、ウガンダに持ってこられる点である。だから外装は(日本語の会社の表示も含め)「ハイエース」に変わりなくとも、中身は別。カンパラでも、そうしたタクシーが黒煙を吐いて走り回っている。
日本のヤクザや、パキスタン系の業者がこの窃盗及び転売に絡んでいると聞いている。ちなみにパキスタン系の人々の、この業界での評判は得てして悪い。平気で事故車や盗難車をそれと知りながら売るばかりか、走行距離を縮めたり、先に書いたように中身の部品がかなり入れ替わっているものを売りつけたり、ルール無用の商売をすることで知られている。そして、一程度の金がたまったら、その土地から去る。信用など何も関係ない、そういうのがウガンダとケニアの中古車業者を廻っているときにインド人やケニア人、日本の実業家たちから聞かされた。
もちろん、噂である。犯罪と外国人、異なる民族が密接に結び付けられて語られる、そのことは日本でもウガンダでも関係はない。ただ、ウガンダで「インド系」と総称されてしまいがちなパキスタン人が、中古車業界で名指しで「パキスタニ」たちと呼ばれているのには、すこしびっくりした。確かに東アフリカの中古車輸入のメッカであるモンバサを訪れた際も、ほとんどの中古車のショウルームがパキスタンの人々によって経営されていた。南アジアの中でも、パキスタン系の人々は中古車業界で隠然とした勢力を保っているのは事実のようだ。
さて、話はウガンダでの商売話に戻るが、車にまつわるトラブルは多い。もし、あなたがウガンダで車を購入した場合、車が生活に占める割合は1割から2割ぐらいとなるのは間違いない。購入した車(3千ドル以下で手に入れられることはまずあり得ない)のほとんどは走行距離1万キロ以上であり、ほとんどの部品は老朽化している。買って1ヶ月のうちにガレージ(自動車修理工場)に持っていく必要に、まあ迫られるだろう。
カンパラでは(ナイロビでも)、まともなガレージを見つけること自体が、これまた至難である。まず、日本人だと分かると修理代を3~5倍ぐらいで吹っかけてくる。交換する部品も場合によっては10倍ぐらいの値段をつける。しかも交換された部品も粗悪な「中国」の模造品で、二三ヶ月もするとまた同じ個所が壊れ、またガレージで吹っかけられるのがオチである。だが、それならまだいい方で、実際には故障した部分とは違う箇所をいじられていて、現状が変わらないばかりかひどくなっていたりもする。もちろんガレージ側は自分たちの非を認めないばかりか、これをチャンスとばかりさらに高い金額の修理費を求めてくる。
買うこと自体も非常にトリッキーだ。中古車と同時に渡された書類に残されている事実もどこまで本当かわからない。その車がどこかしらで盗まれたものではないかという怖れは拭えないのだ。事実、以前に勤めていた私の職場では、日本から「ウガンダで私の元の所有者が見つかったらしいので、とり返してほしい!」という問い合わせが相次いでいたという。また、今回に同行した日本の業者の人も街で走っている中古車の型を見て「あの車は、日本でも中古車で入手が難しいはずなのに、なぜウガンダで???」と首を傾げていた。
中古車のやり取りにおいて犯罪集団が絡むことは常識で、ウガンダで商売をしていたある日本の中古車業者は、偽札をつかまされ、挙句の果ていに巻き添えを食って警察に捕まった経験がある。生き馬の目を抜くような騙しあいの実情が、このウガンダの中古車業界の中には渦巻いている。
それを踏まえてW氏は「やめておけ」と忠告してくれたに違いないのだが、こちらも別のかたちで依頼されたので断るわけにもいかない。せめて事情だけでも、それなりに教えてくれればいいのだが、業者同士でけん制し合っているのか、詳細も教えてくれなかった。
ここでは「車」は「日本」と常に重ねて語られる事柄である。ベンツやプジョーという外車が走ってないわけではないが、ここで走る車の大半は日本車。こちらが日本人とみると、「日本では車が安く買えるのだろう。だから今度買ってきてくれよ」という言葉がだいたい出てくる。そして、海外での騙しあいの実情に疎い日本人は得てして騙される。信頼して入金前に届けさせた車が買主と一緒に海外に持ち出され、蒸発されてしまう、モンバサから取り寄せるためにお金を送ったが、車はいつになっても来ず。まあ、そういう話は巷にあふれている。だから、日本人でここで商売を行っているものは、政治家のサポートをある程度勝ち得た中で、それらを保険として用いながら、生き抜いていっている。
だが、そうした理不尽さを、日本からやってきたお客さんにお伝えするのは、なかなか難しいのである。
(写真はわが愛車エディー号のエンジン部分。一昨年に西部への旅行中、友人がエンジン熱を利用して料理をしようとしていたときのもの。2008年12月8日にウガンダ、ムコノにて撮影。)