選挙の裏側:負け犬の遠吠え |
ウガンダの大統領選が終わり、ムセベニの四選目が発表された。そして最大野党の代表で、ムセベニ対抗馬であったベシイジェは、その結果が出るなり、今回の選挙は不正であり、とてもその結果を認めるわけにいかないとの公式発表を行った。
IPC rejects 2011 election results
http://www.monitor.co.ug/SpecialReports/Elections/-/859108/1111276/-/k30g2i/-/index.html
それらの理由は下記のとおりである。
a) 広範囲での選挙における金銭のばら撒きなど、与党側による目立った不正が見られたこと
b) 一部の投票者の重複申請と投票が見られたこと
c) 一部の投票者の投票が認められなかったこと
d) 選挙管理委員会において、選挙の経緯や監視などは与党側に偏向したものであったこと
e) 多数の地域での選挙結果の各自発表が拒否されたこと
f) 武装化された軍や警察が全国に配置されることによる、投票者に野党へ投票することへの脅威があったこと
g) 少なからずの投票所で野党側の関係者が不当に逮捕、拘束されたこと
h) 一部の投票所でムセベニへの投票を記した票が事前に仕込まれていたこと
i) 一部の投票所が実際に存在しないダミーのものとして登録されていること
j) 大半の投票所では投票のための機材が遅れ、投票者の参加に支障をきたしたこと
これらはおそらく誇張があるとはいえ、事実の部分もかなりあろう。だがその反面に、EUからなる選挙監視団は前回の選挙と比べて、経緯にしても透明性にしてもかなり改善されたことを公式発表で述べている。もちろん問題についても指摘はしつつではあるが。
Elections showed improvement but had avoidable failures
http://www.newvision.co.ug/D/8/459/747142
だがここ半年ウガンダに滞在して、ムセベニやNRMの取っていた選挙活動を眺めていた私としては、これらの発表は本当に外交辞令以外のなにものでもない気がする。もしベシイジェの言い分にいくらかの理があるとすれば、それはa)の大規模な金銭のばら撒きというところだろうか。
例えば、ムセベニやNRMの選挙資金は批判を行ったFDCなどの野党のものと比べて、選挙前から5倍もの差があり、また選挙のためのポスターの増刷、カンパラ市内の公共空間の利用などすべて政府の手を通して行われたという。また公共事業はこれみよがしに「人々のため」というかのように選挙前に行われ、与党が各地のインフラ整備に力を入れていることがアピールもされた。
また、その肝心の選挙資金を集める際にも、それらは「現政権」の名前を通して行われるのと、野党の名前を通して行われるのでは、格段に差が出る。各党内にはそれぞれの党から送られたスパイがいて、どこの企業がどの党にお金を送ったか、それぞれがチェックをしている。特に政権与党のNRMの間諜活動は執拗で、野党にお金を送った企業がいればすぐ政府事業からの撤退を求めるのだというから、誰も野党に献金するものなどいない。
また、金融やホテル業、流通、砂糖や茶のプランテーションを握っているのはインド系会社だが、そのほとんどが自らの利権を確保するために、ムセベニに多額の献金を行っているのは公然の秘密としてある。
それで、その多額の選挙資金がどのように用いられるかというと、それは現ナマで人々に直に配られちゃったりするのである。
先のカンパラ市内での投票前の演説で、地区の議員の立候補者が、多数の支援者に一人5千シリング(日本円で200円ちょっと、ウガンダでは教育のない若者の1日の日当に近い)をこれみよがしに渡していく光景を眺める。このことはウガンダでは期待されている行為の一つでもある。お前に協力するからには見返りをくれ!というもの。
あるいはムセベニが地方に遊説する際に、地区の司教や関係者に太い束の封筒を手渡しにして、そこから演説を始める。その封筒には数百万シリング(数十万円)もの金額が入れられていて、その演説を眺める人は、ムセベニが当人にお金を渡したことを証人としているということになる。
ちなみに野党だって金のばら撒きなどについては、無垢な立場だとは言えないはずだ。大抵の農村のケースでは、金(おそらく千シリング程度)はそれほど頻繁ではないけれども、砂糖(ウガンダでは非常にありがたがられる贈り物である)や石鹸を投票日の数日前に配るのだという。しかも誰からのものかが明らかに分かるように。これは与野党関係ない現象だと、友人たちは言っていた。
それと、今回の選挙期間中に野党から立候補した人間が、ムセベニの実弟、サリム・サリー将軍に「あんだけ金を渡したのに、野党に寝返りやがって!」と声高に非難されたことが報道され、問題になっていた。つまり、野党側も金権政治を利用した上で、選挙活動を行っているわけで、しかも与党側からいろんなかたちでちょろまかそうとしている。
しかし、そのような活動を禁じる法律はウガンダになく(!?)、あるいはあったとしても上のようにウガンダの文脈では当然視され、EUの選挙監視団も取り締まるつもりはさらさらない。そうしたことを考えると、今回の選挙では「不正」など存在しなかったと言ってしまうことができる状況なのである。ウガンダ国民はムセベニとNRMに明らかに買収された。そして、そのことを監視団は「暖かく」見守り、概ね問題がないことを国際社会に報告した。
その意味で、ベシイジェの発表は負け犬の遠吠えの域を出ない、と言ってしまうことができるのである。
(写真はカンパラのNRMの事務所前で昨年11月に撮影したムセベニポスターの嵐。もうここまで行くと、ウォーホルのモンローのようなポップ・アートと化してしまっている。。。ムセベニのラップといい、選挙が芸術となっている一つの例と言える。)